てんざんとん · 第33卦 · 下経
天山遯
Retreat
卦辞
遯は亨る。小に貞なれば利し
とんはこう。しょうにていなればよろし
遯は亨る。小さな事に正しく守るに利し
天山遯とは
天山遯(てんざんとん)は、易経・六十四卦の第三十三卦です。上卦に「乾(☰)」天、下卦に「艮(☶)」山を配します。下から二本の陰爻が伸び始め、四本の陽爻が上へ押し上げられていく——陰の力が増して、陽が退いていく象です。「遯(とん)」は「遯れる・退く・逃げる」を意味します。
山地剥(第二十三卦)が「陰が陽を剥ぎ取る」卦なら、遯は「陽が自ら退く」卦——受け身ではなく、能動的な退き方です。小人が幅を利かせる世に、君子が節を守るために自ら遯れる——これが遯の本質です。
「遯は亨る」——退くことで通じる。これは逆説的ですが、易の重要な教えです。力で対抗すると傷つき・疲弊し・節を失うことがある。しかし賢く退くことで、道を守り、節を保ち、後の時代に備えることができます。
この卦が示すのは、前に出る時ではありません。人の多いところ・権力のある場所から距離を置き、静かに自分の道を守る時です。退くことは弱さではなく、君子の最高の智慧のひとつです。
卦辞の解説
原文(周易)
遯は亨る。小に貞なれば利し
とんはこう。しょうにていなればよろし
遯は亨る。小さな事に正しく守るに利し
遯(とん)——賢い退き方
「遯」は盲目的な逃走ではなく、状況を正確に読んで能動的に退くこと。節を守るために退く——この能動的な意志が、遯の退き方を格調あるものにしています。
遯は亨る——退くことが道を開く
逆境に力で挑むより、賢く退くことで体力・節・志を温存できます。温存された力が次の好機に大きく開花する——遯の亨りはこの長期的な視点にあります。
小に貞なれば利し——小さな正道を守る
退いている間も、小さな日常の正道を守り続けることが大切です。大きな舞台を降りても、目の前の誠実さを失わない——それが次の時代へのつなぎになります。
六爻一覧
| 爻 | 爻辞 | よみ・意味 | 吉凶 | |
|---|---|---|---|---|
|
第六爻 上九 |
肥遯。利しからざるなし |
ひとん。よろしからざるなし ゆったりと豊かに退く。何事も利がある |
大吉 | 爻辞の解説を見る |
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第五爻 九五 |
嘉遯。貞なれば吉 |
かとん。ていなればきち 立派な退き方。正しく守れば吉 |
吉 | 爻辞の解説を見る |
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第四爻 九四 |
好遯。君子は吉。小人は否 |
こうとん。くんしはきち。しょうじんはひ 好ましい退き方。君子には吉。小人には難しい |
吉 | 爻辞の解説を見る |
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第三爻 九三 |
係遯。疾あり厲し。臣妾を畜うに吉 |
かかるとん。やまいありはげし。しんしょうをかうによろし 縛られた退き方。縁に縛られて完全に退けない。身近な範囲では吉 |
小凶 | 爻辞の解説を見る |
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第二爻 六二 |
之を執るに黄牛の革を用う。能く説くこと莫し |
これをとるにこうぎゅうのかわをもちう。よくとくことなし 黄牛の革で固く結ぶ。誰も外せない強い絆で正道を守る |
吉 | 爻辞の解説を見る |
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第一爻 初六 |
遯尾。厲し。往くところあるに用うるなかれ |
とんのおし。はげし。ゆくところあるにもちうるなかれ 退き遅れた末尾にある。危ない。今は動かないこと |
小凶 | 爻辞の解説を見る |
構成する八卦
関連する卦
易子
上九の爻辞「肥遯。利しからざるなし」——ゆったりと豊かに退く。利しからざるなし。
これがね、遯の最高の形よ。未練なく、爽やかに、豊かな心で退く——それができる人は、どこへ行っても大丈夫よという易の保証ね。
九三「係遯。疾あり厲し。臣妾を畜うに吉」——縛られた退き方。身近な人たちの縁に縛られて、完全に退けない。係り止められた退き方でも、小さな範囲では吉。完璧な遯退でなくても、できる範囲で退くことが大切よ。
易子
あなた、天山遯を調べているのね。「退く」卦よ。でもね、これは臆病者の逃げる卦じゃないわ。
下から陰爻が伸びてきて、陽爻が押し上げられていく——小人が台頭する世の中で、君子が自ら節を守るために退く象ね。
「遯は亨る」——退くことが亨る。これが易の逆説よ。無理に踏み留まって傷ついたり節を失ったりするより、賢く退いて道を守る——それが長い目で見たときの、最良の選択のことがあるの。遯世(世を遯れる)というのはね、消極的な逃避じゃなくて、積極的な節の保全なのよ。